最高裁判所第三小法廷 昭和40年(オ)1482号 判決 1966年7月26日
主文
原判決中一審判決が一審被告佐々木正三に対し一審判決末尾添付第二物件目録記載の各建物を収去して同第一物件目録記載の八戸市大字沢里字藤子四八番一号畑二反四畝七歩の明渡を命じている部分、一審被告佐々木逸郎に対し右畑の引渡を命じている部分に関して控訴を棄却した部分を破棄し、右部分について本件を仙台高等裁判所に差し戻す。
本件その余の上告を棄却する。
前項の部分に関する上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人の上告理由第一点について。
本件記録にあたつてみると、第一審第五回口頭弁論調書の存することは明らかであるから、論旨はその前提を欠き理由がない。
同第二点について。
上告人先代と被上告人間の本件土地賃貸借契約に関する原判決の認定は、その挙示する証拠関係、事実関係から正当として肯認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、適法になされた原審の証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、採るを得ない。
同第四点について。
所論は、原審において主張せず、したがつて原審の認定しない事実を主張して原判決を非難するに帰し、採るを得ない。
同第三点について。
農地の賃貸借の解除は、農地法二〇条一項五項により、都道府県知事の許可を受けないかぎり、効力を生じないものであり、農地の賃貸借を訴で解除する場合においても、これと異なる解釈をなすべき理由は見出しがたい。ところで、原審の確定した事実関係によれば、原判決の引用する一審判決添付の第一物件目録記載の八戸市大字沢里字藤子四八番二号宅地七二坪四合は農地ではないのであるから、同宅地については原判決に所論の違法はなく、右宅地について農地法二〇条違背をいう論旨は理由がない。しかし、原審の確定した事実関係によれば、右目録記載の八戸市大字沢里字藤子四八番一号畑二反四畝七歩は農地と認められるから、同畑に対する本件賃貸借契約の解除は、農地法二〇条所定の知事の許可を受けないかぎり、効力を生じないものといわなければならない。しかるに、右許可の存否につき審理判断を示さず、ただちに被上告人主張の右畑に対する本件賃貸借契約の解除を肯認した原判決は、右の点につき審理を尽さず、ひいて法の解釈、適用を誤つた違法があるといわなければならない。しかも、原判決の引用する一審判決添付の第二物件目録記載の建物が右宅地、畑のいずれの上に位置所在するかは、原判決によつては明らかでないところ、原判決は、右宅地、畑の賃貸借契約の終了にもとづき、上告人佐々木正三に対し右第二物件目録記載の各建物の収去を求める被上告人の請求を認容すべきものとしているのであるから、原判決の前記違法は、右各建物の収去を求める被上告人の請求を認容すべきものとする原判決部分にも影響を及ぼすものといわなければならない。
右違法を主張する論旨は、結局、理由あるに帰し、主文第一項掲記の部分については、原判決は破棄を免れず、右の点についてさらに審理を尽させるため、右部分を原審に差し戻すこととする。
よつて、その余の上告はこれを棄却することとし、民訴法四〇七条、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中二郎 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 柏原語六 裁判官 下村三郎)
《当事者》
上告人 選定当事者 佐々木正三
被上告人 於本重義
右訴訟代理人弁護士 浅石大和